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「居つき」について

その七十三
「居つき」について

 前回は、「居つき」と相撲の「死に体」との相似点について述べました。そして居
つきについて、『剣道指導要領』(全剣連版)に記載されている説明文を紹介しまし
た。

 その上で『五輪書』を引用し、〝居つく-居つかざる〟が生死の境であるとし、居
つかない身心への転化、こそが剣道上達の王道であるとしました。

 では実際、剣道の稽古において居つきとはどのような現象をいうのでしょうか。
 『剣道指導要領』では、「ある一つのことに心が捉われる」とか「相手に主導権を
握られる」とか、また「一瞬気を抜いた」と例示していますが、これらのことは相手
との相対関係において生じます。

 典型的な居つきは、相手の強い攻めに気圧され緊張感で身心が膠着した状態になる
ことです。上位の人と剣を交えたとき、鋭い眼光に射すくめられ固まってしまった、
ということは皆さん方も経験がおありでしょう。

 居つきの最悪のものは、〝蛇に睨まれた蛙〟のような身動きできない状態に陥るこ
とですが、そこにまで至らなくても、身体の一瞬の竦(すく)みや竹刀操作が鈍重に
なるなど居つきの現象は多様にわたります。

 反対に相手を侮った場合や慢心があったときにも精神の弛緩が居つきを誘発するこ
とも多々ありますから、よくよく用心すべし、です。

 また、技を打ち出そうと「えいっ」とばかり踏み切ったとき、一瞬動作がしゃちこ
張り起こりが生じます。いわゆる「起こり頭(出頭)」といわれる最たる打突の好機
ですが、これも居つきの一種と考えられます。

 ここでまた『五輪書』が出て参りますが、「風之巻」の「他流に、足つかひ有る
事」で次のように述べています。井蛙現代語訳では、

 飛足を好まないのは、飛ぶときに起こりが生じるからである。飛ぶことは即ち
居つくことである。いくら飛んだとしても飛ぶというのは理に適っておらず、飛足は
悪し。また跳ねるという心づもりでは、捗(はか)が行かないものである。

と、このようになります。
 飛ぶ、跳ねるというのは左右の両足ともに床から離れた宙に浮いた状態をいいます
が、飛んだり跳ねたりして足を速く踏み込もうとしてもなかなか当て所に行かないと
戒めています。
 
 また、同書「水之巻」「有構無構のおしへの事」の井蛙訳では、

 構えありて構えなしというのは、太刀を一定の形に構えるということがあって
はならない。しかしながら、*五方に置くということであれば、それは構えともいえ
る。太刀は、敵との関係のおいて、その出方の応じて何れの方向に置いたとしても、
これは敵を切り易いように持つという心である。 …中略… ともかく太刀を持った
ならば、どのようにしても敵を切るということが唯一の目的となる。もし敵が切りか
かってきた太刀を、受ける、はる、あたる、ねばる、さわるなどいうことがあって
も、これらはみな敵を切るための手段であると心得るべきである。受ける、はる、あ
たる、ねばる、さわるということのみに捉われ(居つく)ならば、敵を切ることはで
きない。何事も切るための手段であると思うことが肝要である。   …中略… と
もかく居つくということ悪し。よくよく工夫すべし。

と述べています。
 このように武蔵が極度に嫌う居つきですが、これを裏返せば、相手の居つきは己の
勝機、すなわち「打突の好機」と言うことができます。

 前出『剣道指導要領』では、打突の好機について次のように記しています。

 打突すべき最も良い機会。その代表的なものは、「技の起こり」「技のつきた
ところ」「居ついたところ」「相手がひいたところ」「技を受けとめたところ」など
がある。これらを理解して稽古することが技能向上のために重要である。

 このように打突の好機の代表的なもの5項目が例示してありますが、武蔵の言をか
りれば、これ全て居つきの現象と言えます。
 3番目に「居ついたところ」とあるのが重なっていますが、これは前述の典型的な
居つき「身心の膠着」と考えれば、矛盾なく居つきと打突の好機が符合します。

 この打突の好機を井蛙風に整理しますと、「出頭」「技の尽きたところ」「引いた
ところ」「受け止めたところ」そして「その他、居ついたところ」となりましょう
か。

 ともかく居つきは死に体と覚悟を決め、そこを打突することに最高の価値を見出す
のが現代剣道の粋であると考えるものです。

 ところで、『五輪書』においては「受け」のみに捉われることを居つきとし、『剣
道指導要領』では「技を受けとめたところ」を打突の好機としています、が、一方で
〝窮極の受け〟といわれる、左拳を頭上に上げ体を右一重にする防御一辺倒の姿勢、
いわゆる「三所避け(隠し)」が依然として横行しております。この〝極限の居つき
〟ともいえる姿勢が、反対に有効打突から身を護る手段と化しているのです。このこ
とについて、皆さん方はどのように思われますか。
つづく

* 五方に置く
「水之巻」「五方の構の事」の項で、次のように前置きしている。「五方の構え
は、上段、中段、下段、右脇に構えること、左脇に構えること、この五方である。構
えは五つに分かれるといへども、これはみな人を切るためである。構えは、五つより
外にはない。いづれの構えであっても構えると思わず、敵を切ることと思え。」(井
蛙訳)
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プロフィール

新宿区剣道連盟

Author:新宿区剣道連盟
「井蛙剣談」への思い

 「井の中の蛙大海を知らず」と自覚しつつ
「井の中は誰よりも知っている蛙」に成り代わり書き進めてまいります
つたなき指導の一環とお受け止めいただければ幸いです
               真砂 威

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