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もうひとつの悟り

その七十
もうひとつの悟り
真砂先生似顔絵

この絵は、平成22年12月31日、当時、東京芸術大学学生であった小山冴香さんが描いたものです。

小生が日ごろ稽古に通っている道場の一つに「誠道塾」という剣道場があります。誠道塾は、荒川区東日暮里4丁目にあり、自ら〝草の根剣道家〟と称する剣道教士七段の今津久雄氏(64歳)が運営している個人道場です。
 詳しくは誠道塾のホームページをご覧ください。→ http://co57.jp/seido/

 この誠道塾では、毎年大晦日の午前中に稽古会を行っております。
 ふつう大晦日は誰でも年越しの準備に余念のないはず。しかし今津氏は、この日こそ、暇を持て余している御仁がけっこういるはず、と、なかば強引に稽古会を立ち上げました。

 - 家でゴロゴロ、使いものにならない〝粗大ゴミ〟扱いの人たちのこと、か -

 いえ、小生は全くその自覚はありません。もっとも参加者全員がそう思っていることでしょうが…。だいたい毎年20~30名ぐらい集まります。

 名づけて「粗大ゴミ稽古会」。

 この粗大ゴミ稽古会は、誠道塾が東中野にあった平成10年頃に始められたので、もう十数年続いている伝統?ある稽古会です。平成21年に誠道塾は荒川区の下根岸へ移転しましたが、更に昨年の夏、現在の場所に移りました。

 小生は兵庫県の明石市に自宅があり、目下、東京と明石の二重生活を余儀なくされておりますが、お正月は帰省ラッシュを避けて、例年、元旦に帰宅することとしております。

 ということで、この稽古会の期日設定と割り符が合うわけですが、私の都合に合わせて今津氏が大晦日の稽古会を計画したのかどうかは、定かではありません。

 もう4年も前のことになりますが、平成22年の粗大ゴミ稽古会には、前回ご登場いただいた「もうひとつの剣道」の唱道者、髙橋 亨氏に声をかけました。

 - このころはまだ『藍のエチュード』の著者、里美  蘭氏の脳裏には〝剣もて恋せよ芸大生〟といった構想など、何もなかったでしょうが -

 黒澤三郎先生ならぬ髙橋氏は、もうひとつの剣道の弟子を数名引き連れ誠道塾にやって来ました。その一人が東京芸大剣道部で剣道三段の小山冴香さんでした。

 小山冴香さんは、『藍のエチュード』の登場人物の誰かに当てはまるというわけではないのですが、芸術家の卵として同じ苦悩をかかえる、彫刻専攻の女子、です。
 熊本出身の彼女は、髙橋氏とはいつも九州弁で会話をはずませる睦まじい師弟関係にありました。

 そして粗大ゴミ集団、ひとしきりの稽古が終わって、後の懇親会は今津氏が経営する浅草の飲食店に移動。アルコールが入るといつもと変わらぬ宴会の活況を呈してまいります。

 その宴たけなわの頃、私の気づかぬうちに小山さんが、割り箸袋の裏に即興で描いたものがこの絵です。

 「先生、これ」と、小山さんから差し出されたとき、私は「えぇっ!」と、あまりの老け顔にびっくりしてしまいました。
 弱冠、とは言いませんが、64歳にしては老け過ぎ、だし、もうちょっと男前!?のはず、と思い、へぇ、「これがオレか?」というのが第一印象でした。

 座興とはいえ、けっして冗談半分で描かれたものではない。むしろ肯定的な内意が籠められているのでは…と、反芻しつつその絵と睨めっこすることしばし——

 すると、酔いの力も手伝ってか、いつしか身体全体の角張ったものが削げ落ちていく自分に気づきました。

 - 現役を離れ、とっくに還暦も過ぎたお前さんには、これがふさわしい -
と、天から声が聞こえくるかのように。

 そうだ、「これがオレだ!」
すると、もやもやとした気分が晴れ、世の中のしがらみからすぅっと解き放たれた不思議な気分が湧いてまいりました。

 そうです、今までになかった、しかも自分の心の奥底で求めていた相(すがた)があの絵でした。

 けっしていつも誰かと渡り合っているわけではないのですが、向こうを張って生きるのが当たり前と思い込んでいた自分に、天から〝任務解除命令〟が下され、

 「これがオレか?」から、「これがオレだ!」へと切り替わった瞬間でした。

 「一生このイメージでいこう」と覚悟を決め、その夜〝行く年来る年〟を閑かに過ごし、早朝、鶯谷の元三島神社にて柏手を打ち、あらためて心の裃(かみしも)を解き、明石への帰途につきました。

 このスケッチは、このたび冊子化された『井蛙剣談』では「上達の道筋」(P75)の挿し絵として使いました。
 なお、この冊子の「あとがき」には、小山さんのことを「小山彩香」と記しておりますが、正しくは「小山冴香」です。この場をお借りして訂正させていただきます。
 冊子『井蛙剣談』は、近日中に皆さん方のお手元に渡る予定です。

 小説『藍のエチュード』では、突然剣道部に入部してきた油画専攻の狼藉女子が、部員の指導よろしきを得て、半年後なんとか初段を取得します。

 それから紆余曲折あって何年か後、その女子がニューヨークで画家として成功をおさめます。その活躍を知らせる新聞報道のアーティスト紹介欄に、なんと「剣道二段」と記されていた、というのが物語の決め手でした。

 その油画女子は、渡米後も剣道を続けていた—— 剣道の形が己の核となり、画家として揺るぎない芯となった、と思わせるストーリーでした。

 あの粗大ゴミ稽古会から4年が経とうとしています。大学を出た小山冴香さんが、今どこでどのような活動をしているのか知るよしもありません。が、きっとプロの彫刻家をめざし精進の日々を送っていることでしょう。

 芸術の道は、険しくて、果てしなく遠い道のりである。しかし、迷いが生じたら、あの油画女子のように、基本の形に立ちかえり己の核を見出してほしい。剣道で身につけたことは、きっと表現者にとって揺るぎない芯となる、と信じて。

 そして、『藍のエチュード』の最終章のように、「○◇彫刻展、新進気鋭のアーティスト小山冴香」——「剣道四段」という活字が目に飛び込んでくる日を楽しみに。つづく
平成26年9月8日
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プロフィール

新宿区剣道連盟

Author:新宿区剣道連盟
「井蛙剣談」への思い

 「井の中の蛙大海を知らず」と自覚しつつ
「井の中は誰よりも知っている蛙」に成り代わり書き進めてまいります
つたなき指導の一環とお受け止めいただければ幸いです
               真砂 威

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