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もうひとつの剣道

その六十九
もうひとつの剣道

<東京芸術大学「剣道部」>
 上野公園の一角に、わが国でただ一つの国立総合芸術大学、東京芸術大学の本部キャンパスがあります。
 同大学では、

 創立以来の自由と創造の精神を尊重し、我が国の芸術文化の発展について指導的役割を果たすことを、基本的な目標としています。
 藝術は、人の心にときめきをもたらし、大いなる愛を呼び起こすものです。
 夢と現実、伝統と革新のバランスを取りつつ、藝術をもって社会に貢献する姿を模索し続ける。これこそが本学のミッションと自覚して、邁進する所存です。

とし、[-世に「ときめき」を- <豊かな感性、光る大学>]を掲げた教育・研究活動を行っています。

 さて、その東京芸大でいま盛んに剣道の活動が行われていることをご存じでしょうか。

 東京芸大には美術学部と音楽学部がありますが、両学部とも保健体育科目として剣道の授業が行われております。また体育系サークルの課外活動として、りっぱに剣道部が存在するのです。

 部活の方は圧倒的に女子の学生が多いのですが、芸術家の卵たちの剣道活動は自由で大らかな雰囲気のもとに実践されています。
 何と言いましょうか、勝利主義的でもなく、といってガチガチの求道的でもない!? 他大学の体育会剣道部ではぜったい見られない特異な風情をたたえています。

 というのは、手指をかけがえのない財産とするヴァイオリニストやピアニストたちが、厭うことなく小手・面・胴と意気軒昂に竹刀で打ち合う光景は、これまた凄まじい精神的迫力が感じられるからです。

 それもそのはず、同大学で剣道の指導を担当しているのは、知る人ぞ知る*「もうひとつの剣道」の唱導者、髙橋 亨教授です。
 まさに、もうひとつの道、を求める剣道愛好の芸術家がここから多く育っています。

<現役とOBの合同稽古「月一会」>
 この、東京芸大剣道部にもOB会組織が存在します。「芸大黒門」と名づけられ、毎月1回、稽古会が行われています。髙橋教授の声かけで始まった現役とOG・OBを中心とする稽古会で、「月一会」という愛称で親しまれています。

 もともと剣道は〝老若男女一堂に会する〟に最たるものと言われていますが、この稽古会はもっと間口が広く、単なる老若男女では括ることができない男女が、老いも若きも、段位・強弱・職業・出自・国籍etcに何ら囚われることなく剣を交える、まったく自由な稽古会です。
 じつは小生も「月一会」の常連であります。参加ご希望の方がおられましたらぜひ顔をお出しください。詳しくは**「芸大黒門」公式サイトを。

<小説『藍のエチュード』>
 この東京芸大剣道部を舞台とした小説がこのほど出版されました。里美  蘭著『藍のエチュード』(中央公論新社 \1,600+税)です。
140828藍のエチュード_mini

 帯紙には〝剣もて恋せよ芸大生!〟と刺激的な文句が記されており、今までのいわゆる、剣道もの、と言われるものとは大いに筋書きが異なります。

 剣道着・袴の「藍」と、恋愛の「愛」をかけた『藍のエチュード』。

 さすが芸大!髙橋氏が唱導する「もうひとつの剣道」最新バージョンと言えましょうか。

 この小説には、髙橋氏とおぼしき顧問の先生も登場します。その名を黒澤三郎(錬士六段)、

 五十代前半、角刈りの堂々たる偉丈夫でいまでも鍛錬を欠かさぬ肉体は頑健そのもの。腹も出ていない。色浅黒く、眉毛は凜々しく、性格も笑い声も豪快で、芋焼酎をロックで飲む。
 芸大に籍を置くようになって、世の中には体育会系の常識が通用しない自由な人間がいることを知り、忍耐心を涵養するようになった。

と紹介されています。
 小生は髙橋氏とは古くからの剣友でありますが、当たらずといえども遠からず、といったところでしょうか。

 それよりも芸大剣道部を取材した著者、里美 蘭氏が感じ取った髙橋氏の第一印象、か、

剣ひと筋——もとい、酒と美女とをこよなく愛する九州男児

のイントロがふるっています。
 
 芸大では、芸術を金と結びつけることは何となくタブーで、極貧のうちに死んだゴッホこそ芸術家のなかの芸術家だという認識がいまだ根強く、だれだれの作品がオークションでうん十億円で落札されたなどというニュースは、冷ややかに聞き流されるのを常とする、そんな空気のなか、

◇ ルックスにもオシャレのセンスにも自分の絵にも自信がない、不器用で純朴で優しく真面目な、教師をめざす、日本画専攻の男子。

◇ 半年間で初段を取る、という目的で突然入部してきた謎の狼藉者。傍若無人で強引で尖った性格と歯に衣着せぬ口の悪さの、戦う油画専攻の女子。

◇ 神社の巫女さんのように清楚な印象、運転手つきの車で大学へ通う正真正銘の令嬢ヴァイオリニスト、弦楽専攻の女子。

◇ 煙草と酒で焼けた声、ティーンエイジをやんちゃに過ごしたという名残か、目つきが鋭いうえに、言葉遣いが粗い、デザイン科の女子。

◇ 見た目がよくて才能があり、コミュニケーション能力も高いが、いい加減で、戦わない、2浪・2留の自由人、彫刻専攻の男子。

といった芸大剣道部の面々が、プロの画家やデザイナーやソリストまたは教師をめざし、胸に抱く理想と厳しい芸術界の現実とが思いを錯綜させる。
 そして、入り組んだ「恋の道」に翻弄されながらも、「芸の道」と「剣の道」を貫き、自己実現の道を一歩、一歩、と…。

 そのなかで黒澤先生の教え、

 芸術家は、なにをどう表現してもいい。その意味じゃ自由だ。でも、だからこそ迷いも大きい。剣道も相手との関係性のなかで無限に変化があるが、ありがたいことに、迷いが生じたらいつでも形に戻って研鑽し、そこでまた己の核を見出すことができる。剣道で身につけたことは、表現者にとっては揺るぎない芯になる

が引き立つ。
 どうやら、このくだりが小説全体に流れるトーンとなっているようです。

 さて、この学生たち、どのような「己の核」「表現者としての芯」を形成していくのでしょうか。
 ぜひ、ご一読ください。そして、機会を見つけ、いちど「月一会」にも足を運んでみましょう。つづく

* 月刊『剣道日本』対談「もうひとつの剣道」(平成12年2月号から平成13年1月号まで連載)。
髙橋 亨教授プロフィール:http://taiiku.geidai.ac.jp/faculty

** 「芸大黒門」公式サイト:http://www.geocities.jp/g_kuromon/

平成26年8月27日
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プロフィール

新宿区剣道連盟

Author:新宿区剣道連盟
「井蛙剣談」への思い

 「井の中の蛙大海を知らず」と自覚しつつ
「井の中は誰よりも知っている蛙」に成り代わり書き進めてまいります
つたなき指導の一環とお受け止めいただければ幸いです
               真砂 威

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