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富士山によせて

その四十七

富士山によせて


 本年6月22日、ユネスコ世界遺産委員会において、富士山の世界文化遺産登録が決定した。


 富士山は古来より霊峰とされ、多様な信仰が形成されるとともに、日本一高く、気高い山として多くの日本人から崇められてきた。


 ♫ あたまを雲の上に出し 四方の山を見おろして かみなりさまを下に聞く 富士は日本一の山 ♬


 これは文部省唱歌『富士の山』だが、剣道古歌にも富士山を詠んだものがある。皆さんよくご存じの、


晴れてよし 曇りてもよし 富士の山 もとの姿はかはらざりけり


 これは山岡鉄舟が大悟の心境を詠んだものである。

 鉄舟は、江戸時代末期から明治初期の剣客で一刀正伝無刀流(無刀流)の開祖。大剣豪といわれていたが、生涯一度も刀を抜かず、人を殺めることはなかった。


 命がけで剣の修業に励んだにもかかわらず、絶対に刀を抜かない覚悟を肚に決めて事に処した。


 では、何のために剣の修業に励んだのか。


 鉄舟の修業におけるエピソードは多いがここでは省略するとして、鉄舟剣術の真骨頂を紹介する。


無刀流の剣術は、勝負を争わず、心を澄まし、胆を練り、自然の勝ちを得るを要す。

無刀とはなんぞや。

心の外に刀なきなり。

敵と相対するを、刀によらずして、心をもって心を打つ。

これを無刀という。


 幕末から明治へ移行する動乱期、いよいよ薩摩軍が江戸へ向けて砲門を開こうとする直前、鉄舟は、幕府軍の軍事総裁 <注>勝海舟の命を受け、和平交渉のため官軍の陣営がある駿府(静岡)に赴き、大将の西郷隆盛に会見を求める。


 そして両者が交わした内容は、


【鉄舟】西郷先生、官軍の意図は、只進撃して幕府側の人間を殺せばよいのですか。それとも朝命に服すればよいのでしょうか。

【西郷】自分は朝命に背くものを鎮定するのは役目である。将軍慶喜公は謹慎といわれるが、甲州一帯では幕軍が抵抗しているのではないか。

【鉄舟】あれは徳川家と絶縁した鼠賊の仕業でござる。主君慶喜の恭順の赤心は間違いございません。西郷先生、天下を再び兵乱の中に投じて、民を苦しめるか、万民の為に和平を呼ぶか。先生のご決意一つでござる。この山岡一身に代えてお願い申す。

【西郷】うむぅ…。


 その後、条件面において重大なやりとりを交わすが、結局、山岡の要求を西郷が呑むかたちで、江戸城無血開城の密約を交わすこととなる。


 後日譚、西郷隆盛は鉄舟を評して、


 いや、人間、時にはえらい人物に出会うものでごわすな。命もいらぬ、金もいらぬ、名もいらぬ、というようなのは実に始末に困るのでごわすが、じゃっどん、あげん始末に困る御仁じゃなくっと、共に天下の大事を語り合う訳には参りもはんど。


と言ったそうである。


 まさに剣の修業で培った胆力のなせるワザであった。


 およばぬまでも、われわれの剣道修業もかくありたいものだ。


 ここで、このたび富士山の世界遺産登録によせ、もう一つ富士山にちなんだ剣道古歌を紹介するので、ぜひ覚えていただきたい。


立合は 心静かに 気を配り 富士の姿を 姿とはせよ


 この気持ちで相手に立ち向かえば、自ずから今よりも一つも二つも高い境地に昇るものと考える。


 富士山の美しさは、完璧な均斉美であり、つりあいの完全理想の姿をあらわしている。

 富士山のような風格、気高さ、美しさを求める修業を。


 美なるものには、人間の、よりよく生きんとする心がある。


 どうか、富士の姿、富士の姿……と呪文を心で唱えつつ立ち合っていただきたい。


おわりに

 剣道は競技スポーツとしていえばマイナーな存在かもしれない。しかし歴史と伝統に育まれた剣道は、日本の文化にしっかりと根づいている。

 それは、われわれの日常生活において知らず知らずに剣道用語が用いられていることでわかる。


 その最たるものは「真剣」。

 木刀や竹刀に対する真剣という意味から転じた言葉だが、「真剣なまなざし」とか「真剣に取り組む」や「真剣勝負」という言葉はなじみ深い。

 今となっては、「真剣」と聞いて本身の刀を思い浮かべる人はいないであろう。


 また、「切羽詰まる」という言い方が、物事がさし迫った場合に用いられている。切羽とは、刀の鍔の表裏、柄と鞘とに当たる部分に添える板金である。


 そのほか「抜き差しならぬ」「鍔競り合い」「間抜け」などなど。


 最近、世間でよく口にのぼっている言葉に「二刀流」がある。日本ハムの大谷翔平選手のことを二刀流という言い方がされているのだが。ひょっとしてこれを野球用語と思っている人はいませんか。(笑)


 このたび日本女性の平均寿命が86歳で、長寿世界一に返り咲いた。男性は80歳で、順位を上げ世界第5位となった。

 われわれはこのような長寿の国に住み、その恩恵にあずかった人生を生き抜いていくこととなる。


 よく「生涯剣道」といわれるが、老若男女一堂に会し切磋琢磨する剣道は、この長寿社会にぴったりの稽古事といえる。今後ますますご精進のほどを。




 これをもって話を終えますが、皆様方には今後とも末長く、剣を通じてのご厚誼、よろしくお願い申し上げます。

 ご静聴ありがとうございました。



 以上、8月4日開催の夏季剣道講習の講義メモを「その四十五」から3回にわたって掲載しました。


<注> 「勝海舟の命を受け」とあるが、「山岡鐵舟先生正伝『おれの師匠』(小倉鉄樹著)」によると、山岡鐵舟はすでに将軍徳川慶喜(寛永寺にて蟄居謹慎中)に謁見し、慶喜公の謹慎が「赤心」である心証を得、慶喜公の旨を稟(う)けた上で勝海舟に相談したことになっている。

  同書には、「勝は山岡を抜擢して西郷へ使ひにやつたように云つているが、大きな間違で、前述べたとほり山岡は勝に逢ふ前既に慶喜公から大命を受けてゐたので、順序上幕府の重臣に相談をかけたのである。」と記してある。




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新宿区剣道連盟

Author:新宿区剣道連盟
「井蛙剣談」への思い

 「井の中の蛙大海を知らず」と自覚しつつ
「井の中は誰よりも知っている蛙」に成り代わり書き進めてまいります
つたなき指導の一環とお受け止めいただければ幸いです
               真砂 威

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