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新刊紹介『日本人の知らない武士道』

日本人の知らない武士道
新刊紹介

『日本人の知らない武士道』

アレキサンダー・ベネット著「文春新書」文藝春秋社 定価850円

剣窓編集委員 真砂 威

 まず、強烈なタイトルに度胆を抜かれる。帯には「日本人を鍛え直す」と記し、剣道着姿で竹刀を持った著者が厳しい表情で剣先を突きつける。

 著者アレキサンダー・ベネット氏は、自らを「ニュージーランド系日本人」と称する。剣道錬士七段、居合道五段、なぎなた五段などあわせて十九段を持つ抜きん出た武道家である。現在は関西大学准教授の職にあり、比較文化論や日本文化論、武道論などを教える。武士道は、武道の実践に即して論じるべきとする武士道研究者。

 さて本書を読み進めると、その内容はタイトルよりもっと辛辣で、「日本人は武士道を知らない」と断言する。

 日本で流通している武士道論のほとんどは新渡戸稲造著の『武士道』に基づいていることをその理由とする。

 『武士道』は、新渡戸がアメリカ滞在中に英文では書かれたものであり、日本の美点や西欧と共通する道徳観があることを世界に知らしめることを執筆の動機とした。これが世界のベストセラーになり、やがてその賞賛とともに日本語に翻訳され日本に入ってくる。

 それまで我が国では「武士道」という言葉自体あまり使われることがなかったそうだ。

 その『武士道』が逆輸入というかたちで日本に入ってきて以来、にわかに「武士道」が広く国民の間で意気盛んに用いられるようになった。

 「日本が世界の舞台でこれだけ活躍できているのは、ほかならぬ武士道ゆえである。武士道は独特の精神文化だ。だから、その武士道を倫理規範とする日本人も独自の存在である」との主張が声高に行われ、たちまち武士道立国的な世論が形成されたという。

 これは井上哲治郎(東大教授・哲学者)の論調であるが、今の読み手にはまこと面映ゆい物言いで連ねられている。

 しかし、決して新渡戸を悪しざまに言い募るものではない。ただ外国から我が国の良さに気づかされ、有頂天となり、ついには居丈高となった。と、その著書『武士道』の戦前における歴史的功罪の罪の面について言い及ぶもの。

 また、「『武士道は日本固有の精神文化である』という主張をよく聞くが、私はその見解には与しない。むしろ時代と場所を超えて普遍的な価値を持っている点にこそ、武士道の意義があると思う。それは私が外国人だからこそ、より明確に分かる」と言う。

 本書は、武士道の神髄として「残心」を第一に取りあげ、残心こそが武士道を武士道たらしめているものと断定する。

 さらには、古典の『甲陽軍鑑』『葉隠』『武道初心集』『兵法家伝書』などにも入り込み、武士道の沿革を述べ本質を敷衍する。それぞれ原文を引用した後、丁寧に現代語訳がほどこされており、噛んで含むような日本語には汗顔の至り。

 著者は、日本の文化輸出の中で最も成功したものは武道である。武道は、それだけのグローバルスケールで普及し、国籍を問わずに認知されている。武道の国際的普及は、外交を通じて百年かけても得られない日本文化と日本人に対する敬愛の念を世界にもたらしている。これは日本人が想像している以上のソフトパワーであり、財産だ。としながらも最も懸念を示すのは、日本の武道界を支配する「勝利至上主義」であるとする。かつての新渡戸『武士道』のように。

 外国から見出された武道が、いきおい自信過剰となったあげく、目的を見失い、目先の勝利至上主義を推し進める愚。井上の論調のごとく、居丈高になっていないか。

 勝利至上主義は、多くの外国人が求める本来の武道から逸脱するものであり、本家本元の日本が取り戻さなければ、武道の将来はないと断ずる。

 まさに正鵠を射るもの。剣道界への真摯な忠告ととらえるべきであろう。

 また光の部分としては、武道がイスラム教国まで広まりを見せていることにも言及し、「武道の教えが衝突することはないのだろうか」の疑問に、彼らは「武道で肉体と精神を鍛えることは、人間の質を高めることにつながり、それがムスリムとしての質を高めることになる」「武道を実践すると、イスラムの教えに反するどころか、アラーに尽くせる人間になる」という。

 なかなか折り合い点が見つからない宗教界なのだが…。

 ひょっとすると武道には世界の宗教を超える何物かが潜んでいるのではないか。


※本文は『剣窓』9月号「新刊紹介」(P27)より転載しました。

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Author:新宿区剣道連盟
「井蛙剣談」への思い

 「井の中の蛙大海を知らず」と自覚しつつ
「井の中は誰よりも知っている蛙」に成り代わり書き進めてまいります
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               真砂 威

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