世界剣道選手権大会に思う

その二十九

世界剣道選手権大会に思う

 このほど第15回世界剣道選手権大会(15WKC)がイタリア・ノヴァラ市にて開催されました。試合結果は、男女団体個人とも優勝という所期の目的を達するものでした。詳しくは全剣連のホームページをごらんください。

 このたび私は、大会運営の一員として参加いたしましたが、WKCをつぶさに観戦して、国内外を問わず、広くこれからの剣道のありかたについて感じたことを申し上げます。

 WKCは国際剣道連盟(FIK)が主催して行われるもので、全剣連が主軸で運営を行っているものの、組織図上は全剣連もFIKの傘下にあります。

 FIKは昭和45年(1970年)、1WKC開催時に発足しました。しかし全剣連の海外普及施策は、決してWKCを主軸とするものではありません。愛好者を日本に招き、また海外に指導者を派遣し、剣と剣を交える日ごろの稽古の実践をとおして世界に広げることを目指しています。

 一方ヨーロッパ各国には、日本文化に造詣が深い剣道愛好者が多くいます。剣道を通じて深く日本を知ろうとする人たちです。そういった面でわれわれには、剣技だけでなく自国の歴史や文化について教養を積む努力が求められます。

 その一方で、FIK、WKCが、剣道の世界的広がりに大きく貢献していることも事実です。WKCは3年に1回開催されますが、試合だけではなく、古流を含む各種の演武が披露されたり、試合後に各国の選手、審判、役員が参加して、合同稽古が行われるなど、他のスポーツと趣を異にした大会運営が行われています。

 さて新宿剣連の皆さんは、インターネットなどでこの15WKCの試合映像をご覧になられたでしょうか。日本国内の大会とは違い、国際舞台における勝負の熾烈さが画面を通して如実に伝わってきたことでしょう。まさに真剣勝負そのものです。

 切迫した極限の場面での戦いぶりに、選手の極度な緊張が切実に感じられます。大事な場面で持ち前の実力を出し切れず、あえなく二本負けを喫する選手がいたりして、全日本選手権大会などで奮然果敢に戦うあの選手が…、と、思われた方も多いと思われます。

 いったい百戦錬磨の強者(つわもの)の身に何が起こったのでしょうか。

 視点を少し変えます。

 全剣連では、伝統文化としての剣道の正しい普及と発展を図るため、剣道の質の向上をめざし、審判と指導法との連携を進めています。

 以前、試合時間の大半が鍔競り合いで占められていることが問題視されました。そして〝試合時間を長引かせている原因は鍔競り合いである〟と結論づけられました。

 それをふまえ全剣連では、鍔競り合いに入った場合、「積極的に技を出すか積極的に解消に務めること」の指導を重視します。反則か否かは、「①正しい鍔競り合いをしているか②打突の意志が有るか③分かれる意志が有るか」ついて、目的と現象を見極めて段階的な基準によって判断することとしました。(『剣道試合・審判・運営要領の手引き』より)

こうした取り組みが実を結び、今のところ国内での主要大会における鍔競り合いの問題は一応の解決をみました。

 しかし日本で行っている改善のための様々な取り組みも、外国に伝わるまでにはかなりの年数がかかることを承知しなくてはなりません。

 また全剣連が試合・審判規則を改正しても、直ちにFIKの規則が改正されるわけではありません。FIK規則の改正にはFIK理事会・総会での決定を必要とします。目下、FIKの試合・審判規則の最新版は平成18年(2006年)12月のもので、新しい全剣連規則は適用となっていません。また『剣道試合・審判・運営要領の手引き』についても、いまだ日本国内での運用にとどまっている状態です。

 もうおわかりいただけたと思いますが、これらの規則等が行き届いていないWKCの試合において鍔競り合いを積極的に解消するという行為は、直ちに相手に打突の好機を与えることにつながってしまいます。

 鍔競り合いを「積極的に解消」しようとすることと「打突の機会を与えない」ことを両立させるため、どうしても過敏な反応とならざるを得ないのです。どうか本領発揮がかなわぬ日本選手の忸怩たる思いを理解してください。

 このたびのWKCを観戦して、国際化社会の中にあって日本の伝統文化である剣道を正しく普及、発展させることの難しさを目の当たりにいたしました。

 FIK、WKCにおける日本の剣道は、強くあって世界の先頭に立ち、しかも内容の良否が問われる立場にあります。

 良い内容の剣道を世界に示すためにも、日本が取り組む改善への諸施策を、できるだけ早く国際的に進展させることが喫緊の課題であると感じた次第です。

 このたびノヴァラで同時開催されたFIK理事会・総会で、次回16WKCは平成27年(2015年)5月、日本で開催されることに決定いたしました。開催地は東京、日本武道館です。

 最後に、わが新宿剣連からイギリス代表選手として15WKCに出場したS.ギブソン氏、団体は大将で出場しましたが、残念ながら団体個人とも予選通過はなりませんでした。ギブソン氏は、過去12(イギリス・グラスゴー)、13(台湾・台北)、14(ブラジル・サンパウロ)とWKCに出場し、敢闘賞も何度か受賞している強豪です。現在32歳のギブソン氏、最後のチャンスにかけ16WKC出場に向けての意欲は満々です。ぜひ新宿剣連あげて応援しようではありませんか。

つづく



「井蛙剣談」への思い

 この綴りを「井蛙剣談」と名付けたのは、古く頓阿が著した「井蛙抄」をもじってのことです。
 「井の中の蛙大海を知らず」という自嘲を込めつつも、「井の中は誰より知っている蛙」になりすまして書き進めたいと思います。頓真


「井蛙抄(せいあしょう)」

歌学書。頓阿(とんあ)著。6巻。1360~64年(延文5~貞治3)頃成る。古代・中世の歌論書の所説を集成し、さらに師二条為世からの聞書や当時の歌壇の逸話を集めたもの。(『広辞苑』より)


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 「井の中の蛙大海を知らず」と自覚しつつ
「井の中は誰よりも知っている蛙」に成り代わり書き進めてまいります
つたなき指導の一環とお受け止めいただければ幸いです
               真砂 威

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