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心すべきこと②

その二十四

 昭和の時代に入って戦時色が濃くなるにつれ、武道の奨励が国策として掲げられ、戦争遂行のための中枢的存在に位置づけられ、剣道も次第に「戦技化」の道をたどり、〝実戦即応型剣道〟が提唱された、と前回申し述べました。
 
 はたして、その時代において、剣道を取り巻く社会的状況はどのようなものであったのでしょうか。剣道界の生き字引といえる全日本剣道連盟の武安義光会長は、連盟『五十年史』(「総説編」)で当時のことを次のように記しておられます。

[…政府の方針による、中学以下での剣道教育は行われていたのであるが、指導者も乏しく、用具も不足の中、内容は恐らく剣道の正しい教育からほど遠いものであったに違いない。そして素養の乏しい指導者は、戦争への協力を笠に着て、無理な戦技的訓練を強いたり、他のスポーツを蔑視して、肩で風を切るような行動を取った者も多かったに違いない。
 基本的には、体だけでなく心の訓練をも目指してきた剣道を、戦争目的に合致する教育に転換するのは無理があり、良心的指導者には様々の苦渋があったと推察される。
 すべてを戦いに勝つためにという時代に、剣道が弄ばれた。そしてこのような戦争中の活動は後々に大きな傷跡を残した。]

 では実際、巷においてどのような剣道の練習がなされていたのでしょうか。
 戦後生まれの我々が想像するのは、野外でゲートルを巻いて行う実戦的な練習で、遠い間合から一挙に打ち込み一撃必殺の様相で、味も素っ気もない打ち合いが頭に浮かびます。

 当時のいろいろな政令などを見ましても、まさに実戦即応型の武術を奨励しております。国家総動員体制の下、お上の言うことに国民のすべてが従ったのでしょう。

 しかし、当時のことをよくご存じの武安会長はじめ多くの先輩方からのご指摘によりますと、実際それを受けた側の、特に大学生、高校生レベルの人達、また、一般社会人の方では、そのような実戦的な練習と言うのはほとんどされていなかったということです。

 また、当時の剣道専門家と言われる人たちが、どのような考え方を持っておられたかについて杉江正敏氏(大阪大学教授《当時》)は、「全剣連設立50周年記念剣道文化講演会」(平成15年1月19日、九段会館)で行われた、講演『剣道理念の形成と無刀流』で次のように述べておられます。

[武道専門学校の教授をされておりました、先生方もよくご承知の佐藤忠三先生でございますが、昭和16年の段階で、このようなことを申されております。「それで、どうもこの頃、実戦的剣道ということが盛んに言われます。勿論、当然でありますが、それよりも、もっと高尚な昔の人が身を翳(かざ)した美しい心をもって磨かなければ、本当の武道ではないと思います。こういうように刀を抜かずに相手を威圧する、また修錬した処の徳をもって人を化すという処まで行かなければ、本当の剣道ではないと考えているのであります。」戦時体制下の武道界において、このような見識を示されていると非常に安心をした次第であります。]

また、
[戦争がさらに激化した昭和18年、東京高等師範学校の佐藤卯吉先生が、剣道の真剣味、剣道における真剣という意味は、どんなことだろうというテーマで論説を述べておられます。その中で、「真剣ということの意味が、ただただ生物的或いは動物的意味、喰うか喰われるかの闘争以外にないものであろうか、万物の霊長とまで言われる人間は、真剣なる意味をかかる素朴的意味のみに考えて満足すべきではあるまい。」と、早急な体育の戦技化に疑問を投げかけておられます。
 そのほか、このような意見は、やはりあちこち随所でみられております。実戦的武道移行への掛け声が強くなっても、このような意見を必ずどこかに見出すことが出来て、ホッとした次第でございます。]

 文化の継承者として、両先生のたしかな見識がうかがえると同時に、国の政策であるから正面切ってものを言えないもどかしさが感じられます。

 このように国家の思わくと実際に床場で行われていたこととは大きく違っていたいたようですが、敗戦により、剣道は誤解を受けたまま長い雌伏の時を過ごすこととなります。

 関係者の努力の甲斐があって、再び正課として教育に返り咲くこととなりました。喜ばしいことではありますが、チャンスとピンチは隣り合わせです。武安会長が述べられているように、〝素養の乏しい指導者〟による拙劣でしかも〝肩で風を切るような〟指導が行われるようなことになれば、剣道は義務教育の段階において、3K感(危険・汚い・きつい)を植え付けるだけで、〝剣道嫌い〟症候群を量産することになりかねません。
 せっかく見直された武道です。兎にも角にも戦前と同じ轍を踏むことのないよう心しなくてはなりません。

つづく
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新宿区剣道連盟

Author:新宿区剣道連盟
「井蛙剣談」への思い

 「井の中の蛙大海を知らず」と自覚しつつ
「井の中は誰よりも知っている蛙」に成り代わり書き進めてまいります
つたなき指導の一環とお受け止めいただければ幸いです
               真砂 威

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