「絆」について

その二十

昨年の東日本大震災でお亡くなりになられた数多くの方々、また被災地の現況を思うとき、「おめでとうございます」との言葉はついて出ませんが、たってご挨拶申し上げます。
 新宿剣連の皆様、新年明けましておめでとうございます。会員の皆様方におかれましては、ご家族ともども新しい年を迎えられましたこととお喜び申し上げます。本年も剣を通じてのご交誼、よろしくお願い申し上げます。
 被災地においては哀しみを乗り越え、復旧、復興が推し進められる中、家族の大切さを再認識し、また支援の輪が広がったことにより、改めてコミュニティの大切さが見直されました。更に、なでしこジャパンのチームワークによる活躍が、わが国に活力をもたらしたこともあり、昨年の世相を表す一文字の漢字に「絆」が選ばれました。
 まさに絆は、納得のいく一字でありました。しかし、これらのことをもって〝人と人の絆〟の大切さを再認識したとするには、余りにも大きな犠牲をはらったと言わざるを得ません。
 作家の曽野綾子さんは、本年1月1日付の産経新聞「正論」で、絆について次のように述べておられるので、ここにご紹介させていただきます。

《東日本大震災以来、日本人の心に或る変化が起きて、今までとは違って絆を大切に思うようになったという。そのこと自体は自然で、悪いものではない。しかしそれは今まで絆をあまり意識していなかった人間の心を浮き立たせた。》
と、まず前置きした上で、

《最近の人間は孤立している。テレビゲームのような架空世界で一人で遊ぶことが許される社会的合意ができてしまったからだ。昔の子供は友達と遊んだ。学校の帰りいは道草もくった。友達とは仲がよい時もあれば、喧嘩をして殴り合うこともあったが、すべて基本は人と人の接触であった。》
と、いにしえの濃密な人間関係について述べ、

《どの場面でも人間と人間との生の関係、絆は濃厚だった。改めて絆などと言わなくても生きるということは濃厚な絆の只中にいることだった。地震や津波を体験したから、その大切さに気づいたというのでは遅すぎる。》-中略-

《私たちはいつのまにか、ごく普通にコンピューターの画面の中だけで世界や人間を知ったつもりになっていたが、これからは生身の人々の真っ只中に自分を置き、そこから学ぶという姿勢を知るべきなのだ。それは多くの場合、決しておきれいごとでは済まない。摩擦、対立、相克、忌避、誤解、裏切り、などあらゆる魂の暗黒をも見せつけられるが、その苦悩の結果として、深い連帯感という幸福の配当も受けるものである。
 私にとっては、物心ついてから今まで、濃厚な対人関係こそすべての歓びと苦悩の種だった。私の廻りは常に絆だらけで、私はそれが、良くも悪くもある人生そのものだと考えて生きてきた。テレビの画面でヴァーチャル(現実に対する架空)な、従って薄っぺらな人生だけしか見てこなかった人たちの意識を、悲惨な地震と津波が濃密な現世に引き戻した、としたら、それは我々の人間性復活のための大きな贈り物と考えたい。》
と締めくくっておられます。

 この、人と人の接触がなくなったことやヴァーチャルリアリティへの問題は、このたびの震災が起こる前からもしばしば指摘されていました。
 拙談でも、「その十七(目付けについて)」で「人間の関係性」について言及しております。もう一度ご覧ください。
 そして「その十七」の最後は、「話が飛躍するかもしれませんが、将来この世代の子たちが仮想現実感覚のまま〝核兵器のボタンを押さない〟と、誰も断言することはできません。こうした心配が無用となるよう、いま剣道が大きく貢献すべきときであると考えます。」と締めくくっていますが、ヴァーチャルリアリティをこれ以上進化するにまかせたら、全世界はもっと深刻な事態に陥るのではないかと危惧するものです。

 言うまでもなく剣道は、人と人との絆により成り立っております。そして絆のさまざまなありさまを如実に体現するものでもあります。
 そこで、上記の曽野さんの文言を借りて、剣道で培われる絆に当てはめてみます。
[すべて剣道の基本は人と人の接触である。また、剣を交えての攻防はどの場面でも人間と人間との生の関係であり絆は濃厚である。まさに生身の人々の真っ只中に自分を置き切磋琢磨を繰り返している。
 剣と剣を交えての対峙は決しておきれいごとでは済まない。摩擦、対立、相克、忌避、誤解、裏切り、などあらゆる魂の暗黒も見せつけられるが、その苦悩の結果としていつしか、そんなものでは埒(らち)のあかない自分に気づかされる。
 稽古場面での「打って反省、打たれて感謝」という至言は、深い連帯感という幸福の配当も受けるものであることを示している。
 ひごろの稽古において濃厚な対人関係を築き、有効打突を競い合う歓びと苦悩を乗り超え「交剣知愛」の世界を築くことこそ剣道の理想とするところである。]

 いかがでしょう。こういった剣道を全地球的に広めることが、全剣連が定める『剣道修錬の心構え』、「広く人類の平和繁栄に寄与せんとするものである。」につながるものと考えます。

つづく

スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

新宿区剣道連盟

Author:新宿区剣道連盟
「井蛙剣談」への思い

 「井の中の蛙大海を知らず」と自覚しつつ
「井の中は誰よりも知っている蛙」に成り代わり書き進めてまいります
つたなき指導の一環とお受け止めいただければ幸いです
               真砂 威

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
リンク