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ふたたび、鍛える

                  その114
                ふたたび、鍛える
 わたしは3年前に古希を迎えました。
 そのとき心に決めたことは、「これからは身体を労って過ごそう」ということです。
 例えば、駅でエスカレータと階段の両方あれば、迷わずエスカレータに乗るという類いのものですが。

 若いころは3階ぐらいまでならばエスカレーターを極力使わずにきましたが、60歳を過ぎた頃から、あるときはエスカレーター、またあるときは階段と、その時々の気分によって選り分けるようになりました。

 そして更に歳を重ねるにしたがって両者を前に、「さて?」と迷うようことしばし。
 迷いの理由は、エスカレーターを使うとなんだか後ろめたく、階段を登ればしんどい、と、たあいもない選択に悩むことが多くなってきたのです。
 ご多分に洩れず「老化現象」にほかなりません。

 『論語』に「四十にして惑わず」という教えがありますが、こちらは「七十にして惑わず」と申しましょうか、その惑いにケジメをつけたのが古希の節目でありました。
 70歳の誕生日を境に即断即決、迷わずエスカレータに足を向けるようにしました。
 またそれだけではなく一事が万事、何ごとも迷わず楽な手段や方法を取ると心に決めました。
 電車に乗れば、遠慮なく優先座席に座る、というぐあいに。

 「歳を取るということはこのようなことか」と自嘲しつつも、ささやかながら「生きたいように生きるとはこんなことかも」と、頑張らずに世を渡ることのできる境遇に、チョッピリ満ち足りた気持ちで日々の暮らしを送っていました。

 といって、こと剣道に関しては、まだまだ年齢にあらがう気持ちでいるのですから虫のいい話でありますが。
 我田引水よろしく「七十にして心の欲する所に従って矩を踰(こ)えず」にピッタリと、自己満足の世界を描いておりました。

 そんな「老境三昧」様の生活に浸っていたのも束の間、昨年の冬に癌が見つかり、病床に就くことを余儀なくされました。

 4回にわたる抗癌剤治療を施した後、夏に全摘手術を受けました。10時間に及ぶ大手術でしたが、翌日には早速リハビリに歩行が課せられます。
 全身管に繋がれたまま点滴スタンドに寄りかかって歩くのですが、ふだんなら目と鼻の先、たった10メートルほどの距離を歩くのも、途方もなく遠く感じられる有様です。

 「こりゃいかん、剣道どころではない!」
 果たして元の生活を取りもどすことができるのか、不安に苛まれる日々が続きます。
 苦界に身を置くことを嘆きながら、おぼつかない足取りでリハビリ歩行を続け再起を期する心持ちは、老境三昧とは余りにもかけ離れたものです。

 歩行に少し慣れたところで、ベッドの手すりをつかんで蹲踞のまねをしてみますが、脚の屈伸がままなりません。手すりをつかんだ手に頼らずには腰を下ろせないほど脚が弱っています。

 次は素手にて中段に構えてみます。上虚下実を意識して下腹部に気を籠めようとしますが、臍下丹田の感覚がどこか心許ない。
 それもそのはずです。丹田は膀胱と同じ箇所にあり、その膀胱を摘出しているのですから、トホホ…

 丹田は、決して器官として物質的に存在するものではありません。しかし、膀胱の摘出手術は腹部内腔への損傷が伴い、たとえ傷が癒えたとしても臓器の欠損感とともに丹田の感覚に異変が生じるのは致し方ありません。

 このまま下っ腹に力が入らない状態で剣道を再開することになるのか、と暗澹たる思いに駆られます。
 「ともかく足腰を鍛えねば!」

 そして退院を迎えたその日に、改めて決心をしました。
 あの、古希のとき「身体を労って過ごそう」と決めたことを180度翻し、ふたたび「鍛える」を生活目標に掲げることとしました。

 まさに「老骨に鞭を打つ」ことになりますが、どこまで体力が回復するのか、それとも潰えるのか、新しい挑戦が始まりました。

 それからというもの歩く距離を徐々に増やし、半年後には日に1万歩を優に越えるところまで伸ばしました。
 また、エスカレーターやエレベーターを極力使わず階段をもっぱらとする。電車に乗ったときも優先座席にすり寄ることなく、むしろ背を向ける、という生活を自らに課すこととしました。
 当然、新宿スポーツセンターの道場への上り降りは階段を使うことも、です。
 
 あと2年で後期高齢者の列に連なりますが、これからどのような老後が待っているか、まったく未知数であります。
 いったいこの生活を何歳まで続ければよいのか。まさか、鍛えながら「要介護」となることはなかろう等こもごも。
 ともかくここ当分、楽隠居とは程遠い生活を強いられることは確かです。
つづく
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プロフィール

新宿区剣道連盟

Author:新宿区剣道連盟
「井蛙剣談」への思い

 「井の中の蛙大海を知らず」と自覚しつつ
「井の中は誰よりも知っている蛙」に成り代わり書き進めてまいります
つたなき指導の一環とお受け止めいただければ幸いです
               真砂 威

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