蛮力を排し

井蛙剣談 その十二

 拙談「その八」で、女子剣道の萌芽期における女性剣士は、「男勝り」という形容がぴったりで、勝ち気でしっかりしている人が多く、相打ち、鍔ぜり合い、体当たりなど男に負けじと気丈に立ち向かう存在であったと述べました。
 当時、ほんの少数であった女性ですが、しだいに愛好者が増え、今日の隆盛にいたり、そして、女性愛好者が増加した要因は、剣道の「安全性」にあるとしました。その上で、「安全」と「女性」の延長線上にあるのは「平和」であると申し上げました。
 さらに、これに関連する書ということで鴨志田恵一氏著の『残酷平和論 -人間は何をしでかすかわからない動物である-』(三五館発行)を紹介し、皆様方へ購読を勧めました。
 後日わかったことですが、驚くべきことにその鴨志田氏は、朝日新聞記者時代の平成4年(1992)、週刊『AERA』に『平成剣道女性が主役』という記事を書いておられます。なんと、19年も前に現在の女子剣道の隆盛を言い当てておられるのです。

 鴨志田氏のはからいにより、当時の記事を入手しましたので、その抜粋したものをご紹介させていただきます。

[Asahi Shimbun Weekly AERA 1992.7.7]より
平成剣道女性が主役
- 強く楽しく美しく斬る -
 
戦後第3次剣道ブームを支えるのは、娘さんやお母さん剣士たち。平成剣道の真髄は、厳しく優雅に謙虚であれ、と。剣が女を磨く。
編集部 鴨志田恵一


 年々女性剣士は増えている。堂々と男性と渡り合い、試合を制した人も多い。他の格闘技やスポーツでは、こうした男女対等の試合ぶりはない。

 各都道府県剣道連盟が主催する昇段審査でも、女性は男性と竹刀を合わせ、一緒に実技の試験を受ける。剣道は意外にも、男女間の区別がなく機会均等なのである。

女性だけの段位審査は
女性の方が「お断り」

 全日本剣道連盟の武安義光専務理事(注、現会長)はこういう。「男女平等ではあるが、やはり女性は筋力も瞬発力も男性よりも弱いから、高段位になるほど審査に通りにくい。女性だけの段位審査を設けたらどうか、との声もある。しかし、女性のほうからそんなことはしなくていい、男性と一緒だからこそ価値がある、といっている。当分このままでしょう。」

 一九四五年の敗戦で、占領連合軍は学校の武道教育を廃止し、剣道界の組織「大日本武徳会」に解散命令を出した。武道の中でも、特に剣道は軍国主義復活につながる危険なものとして、厳しく禁じた。
 五二年の講和条約発効後、ようやく剣道解禁となり、全日本剣道連盟が発足。経験者、有段者を中心に活発となった。
 五七年、中学、高校で柔剣道が正課体育に取り入れられて青少年に広がり、新しい剣道ブームを生んだ。
 最近目立つ傾向は、女性進出だ。
 現在、女性の六段は全国で一四人、七段は七三歳と五四歳の二人。戦後の剣道解禁時には、考えられなかった現象である。

子供は受験勉強で脱落
お母さんは次々昇段

 アンケート調査のまとめには、「剣道婦人は多彩な趣味を持ち、多芸であり、積極的に生活を楽しんでいる」とある。
 古典的かつ現代的な日本の良妻賢母型女性像が浮かび上がるといっても、見当違いではなかろう。

男性剣士は精神論をぶち
女性剣士は黙って励む

 男性の高齢高段位の剣道家の中には、剣道のあるべき論、精神論を強調し、スポーツ化をたしなめる人も少なくない。他者の剣道をことさら批判する姿もある。が、一方で、女性剣道愛好者は黙って励み、楽しみ、したたかで、謙虚のように見える。
 極めて日本的である剣道を禁止した占領連合軍最高司令官マッカーサー元帥も、平成女性が示す昨今の剣道界の変容は、予測もしなかったに違いない。

大島功・全剣連会長に聞く 
剣道は思いやりの精神です

 女性が剣道を始めると、美しくなるというのは、本当でしょうね。
 自分で稽古をしても、他人の稽古を見るにしても表情が引き締まります。礼儀を強調する道ですから、立ち居振る舞い、姿勢が良くなることもあります。ストレスも大いに解消されます。
 なにより、他人への思いやりが生まれます。剣道の礼儀とは、お辞儀の角度がどうこう、座り方はこうだとか、形式をいうのではなく、自然に人間関係の調和を知り、それを保つことなのですから。


 以上は、当時の記事を断片的に連ね並べたものであります。文中に女性の高段者の数を、「六段は全国で一四人、七段は七三歳と五四歳の二人」と紹介されていますが、あれから19年経った現在は、六段は700人を優に越し、七段は200人に迫る爆発的な勢いで増えています。いまさらながら鴨志田氏の洞察力には感心させられます。

 ところで、さきほど「安全」と「女性」の延長線上にあるのは「平和」であると申し上げましたが、小生心理学には不案内ながら、たしか「男性原理」と「女性原理」があって、男性原理の根底にあるのは集団規律と道徳規範であり、権力や暴力と結びつきやすいとされ、その反対に女性原理の根底にあるのは共感性と寛容性であり、対立や戦争を極力回避しようとする、というようなことを書いた本があったと記憶します。
 短慮は免れませんが、剣道が世界平和に資する一つの道筋が見えてきたように思います。
 剣道は、人間の根源にある「闘争」という不可避的な本能を、「礼儀」と規律正しい「かたち」の中に閉じこめ、しかも「安全」に仕合うことが可能な武道であります。
 そういう意味で剣道は、数多い武道種目の中で、本来的意味である「武」を人の「道」として体現させることに成功したといえます。その証しが、女子の興隆にあるといえないでしょうか。
 蛮力を排し、理法に則った立合にこそ、男女の性差を超えての人間形成の道といえるのではないでしょうか。
 将来は、〝女もすなる〟の時代が到来するかもしれませんよ。

つづく
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Author:新宿区剣道連盟
「井蛙剣談」への思い

 「井の中の蛙大海を知らず」と自覚しつつ
「井の中は誰よりも知っている蛙」に成り代わり書き進めてまいります
つたなき指導の一環とお受け止めいただければ幸いです
               真砂 威

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