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号外 いかがお過ごしですか?

いかがお過ごしですか?

 昨日(4月7日)、安倍晋三首相から7都府県に「緊急事態宣言」が発出されました。期間は、5月6日まで1ヶ月とのことです。
 日本全体に押し込められた閉塞感が漂っております。特に首都圏にお住まいの新宿剣連の皆さん方におかれましては、外出を自粛され巣籠もり生活を強いられる情況かと拝察いたします。
 
 また、これに先立ち4月5日には全剣連から「緊急声明」が出されました。
 すっかり耳馴染みとなった、「密閉」「密集」「密接」の3密ですが、残念ながら、剣道の稽古はこの3つの条件がすべて含まれているとのことです。
 緊急声明では、実際、すでに一部の地域では剣道の稽古による感染クラスターが発生しているようです。したがって、感染の流行が収まってくるまでは、対人的な稽古は中止してください、と報じております。

 先般、新宿スポーツセンターの休館に際し、拙稿号外「休館やむなし! たたみ一畳の修業」を掲載いたしましたが、あれから1ヶ月余りが経ちました。
 当初、同センターの休館の期間は3月末までとしていましたが、現時点では5月10日まで延長となりました。
 
 「たたみ一畳の修業」において、剣道の技量を落とさないためにも、また、健康を維持する上においても日常生活に一工夫、加えていただく必要があると申しましたが、いかがお過ごしですか。

 1日1回、竹刀を持っていますか?
 また、竹刀を持って、どのような練習をしていますか?

 時間のない方は、1日何本という目標を定め素振りをするは大いに結構です。ぜひ毎日続けてください。

 時間に余裕のある方は、この稽古休止期間を〝これ幸い〟ととらえ、自己の剣道の根本を見直す絶好の機会としてください。
 「たたみ一畳の修業」を今一度お読みいただき、自分の身体の内側に意識を向ける練習を心がけてください。

 両手で竹刀を把持した身体がバランスよく挙措進退ができ、有効打突の身体表現が満足にこなすことができれば、立合稽古の場に戻ったとき、目を見張る上達、請け合いです。

 「ドレミファソラシドドレミファ……」を延々と繰り返す、小田切碧生君のピアノの基礎レッスンのように、ひとり稽古を黙々と続けてください。
 1ヶ月後、皆様方と元気で顔を合わせ、剣を交えることを楽しみにしております。
 いま少し、辛抱いたしましょう。

井蛙剣士 頓真
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「力を抜く」を読んでの感想文

               「力を抜く」を読んでの感想文
 新宿スポーツセンターの休館が4月15日まで長引き、皆様方におかれては剣道難民の状態に陥っておられないかと懸念しております。
 前回お示しした、「たたみ一畳の修業」続けておられるでしょうか。

 こんなとき、少年部(中学生の部)に所属している小田切 碧生君と会う機会がありました。そのとき、小田切君から井蛙剣談の感想文を渡されたました。
 拙談に対するコメントなど、皆無の状態で書き進めて参りましたが、少年剣士から感想文を手渡されるなんて、不可思議でありました。

 実は会員の林 裕子さんから、本年1月10日付「力を抜く」を読むように薦められて、が発端のようです。
 小田切君は、この春中学2年生になるのですが、この感想文はとてもこの年齢の少年が書いたものとは思われない内容なので、ここに紹介いたします。


「力を抜く」を読んで
小田切 碧生
 僕は剣道が強くありません。「スポーツとして好きか?」と聞かれたら、正直、好きではないかもしれません。
それなのにどうして続けているんだろう、と自分でも思います。両親にも同じことをよく聞かれます。
 でも、なぜか〝続けていくべき〟だと思っています。
 それは、〝自分が生きていくうえで、必要なことが剣道には詰まっている〟気がするからです。
 必要なことというのは、誰かに襲われたとき、棒きれ一本で防御するためというような実用的なことではありません。というか、僕の剣道の腕前では、戦うよりも走って逃げた方が、絶対、有効だと思います。

 僕が今、剣道を続けているのは、剣道という戦う技術そのものよりも、その精神というか根底に流れている物の考え方が、人生において、とても大切なものだと思う、からかもしれません。

 それは僕が幼いころから続けているピアノとも似ています。
 剣道もピアノも「基本」をとても大切にします。剣道の素振りや切り返しは、何十年も剣道を続けている先生方も必ず行いますが、ピアノもハノンなどのように、指の動きをスムーズにするための「ドレミファソラシドドレミファ……」を延々と繰り返すような基礎レッスンが欠かせません。

 メロディもリズムも変化がないので新しい曲を練習するのに比べると、すごく退屈で、でもなかなかキレイに揃わないのでうんざりすることもたびたびありますが、これをさぼると、とたんに他の曲もきれいに弾けなくなります。

 真砂先生が書かれていた「力を抜く」というのも同じです。しっかり鍵盤を叩かないと、いい音は出ないのですが、ずっと指や腕、肩に力を入れたままだと音がギクシャクして来たり、美しい音ではなくて、うるさい音になってしまいます。

 僕は昨年、ピアノの先生に「脱力ができていない」と、何度も、何度も指摘されました。最初はよく分からなくて、そっと弾いてみたり、軽いタッチを心がけたりしましたが、先生は「それは違う」というのです。
 でも、何度も叱られて、先生の弾き方を見せてもらううちに、〝ピアノは指で弾くのではない〟ことに気が付きました。

 肘や肩、指に常時、力を入れて鍵盤を叩くのではなく、重心を左右にわずかに移動させたり、手首をやわらかく使うことで、体に力を入れなくても(入れない方が)スムーズな動きになり、なめらかで豊かなメロディを奏でることができ、鍵盤を弾く一瞬だけ、パッと指に力を込めて、瞬時に脱力することで鍵盤につながっているピアノの弦が美しい響きを作るのです。

 という理論は、先生に教えていただいたり、本を読んで理解しましたが、なかなかうまくいきません。ピアノも剣道と同じで、基礎練習で指の動き脱力のタイミングを何度も何度も練習することが必要なんだと思います。
 この基礎練習が必要なこと、日々こつこつ努力をすることの必要性は、ほかのどんな物事にも共通すると思います。
 毎日ちょっとずつでも辞めないで努力するから得られる自信とか進歩の大切さをピアノと剣道は教えてくれる気がします。

 真砂先生の書かれたエッセイを読んだ後、稀勢の里関が引退して、弟子に稽古をつけたというニュースをネットで見ました。
 引退して親方になっても基本の稽古を続けている元稀勢の里は、弟子たちに稽古をつけたとき圧勝し解説者の舞の海さんが「初場所に出ても優勝できる、元稀勢の里は今が一番強い」と言ったそうです。
 横綱を引退し、現役ではなくなった後も、基本の稽古を続ける稀勢の里はものすごくかっこいいです。
 新宿剣連には、僕の何倍も生きている年を重ねた方々たくさんいますが、その方たちは稀勢の里と同じく、基本の大切さを知っているのだなあと思いました。
 強くなるための剣道ではなく、生き方を学ぶ道としての剣道を、これからも学んでいきたいです。

 文中の「ハノン」? こちらが常識がないのか、ちょっと聞き慣れない言葉なので調べましたら、フランスの作曲家、シャルル゠ルイ・ハノンが1873年に作曲した練習曲集のことらしいです。

 いかがですか。剣道とピアノを対比させて基礎練習の大切さを理論的に述べています。習い事の上達の要諦を自分なりに解き開き、咀嚼し、平たくまとめた文章に感心いたしました。
 そして、引退後も基本の稽古を続ける稀勢の里を「ものすごくかっこいい」との受け止めは、実に求道的であります。

 今秋11月、74歳を迎える私は、運転免許の更新期でもあります。同時に免許返納を決めている身ではありますが、なんだか新たにピアノを習いたい気分になりました。
 一つの道にドップリ浸かってきた人間は、かえってその求道に〝慢心はないか〟常々反省しなければなりません。他の習いを始めるのもその一つかと。
 その時は、小田切君、指導をよろしくお願いします。

 皆さん、このコロナ「禍」を、自己の剣道の基礎を内側から見直す、たたみ一畳の修業、で「福」と転じさせようではありませんか。
井蛙剣士 頓真

号外 休館やむなし! たたみ一畳の修行

                  号外
                休館やむなし!
               たたみ一畳の修業
 肺炎を引き起こす新型コロナウイルス感染拡大防止のため、新宿スポーツセンターが臨時休館することとなりました。

 期間は、令和2年3月1日(日)から3月31日(火)までの1ヶ月間。利用再開については、今後の状況により変更する場合があるとのことです。

 したがって新宿剣連の稽古は、3月まる1ヶ月、一般の部(午前・午後)、少年の部ともすべて中止となりました。

 会員の皆様方の中には、春の昇段審査に向け、いよいよ稽古に拍車を加える時期に入っており残念なことであります。
 これから先は、新宿スポーツセンターに限らず公の施設での剣道の活動は出来なくなると見込まれます。

 さて、この休館1ヶ月の期間をいかに過ごすか。
 剣道の技量を落とさないためにも、また、健康を維持する上においても日常生活に一工夫、加えていただく必要があります。

 思えば9年前、東日本大震災の発生により同スポーツセンターが休館を余儀なくされました。
 その時、拙談その四「つなげる工夫」で申し上げましたが、ぽっかりと開いた空白期を無為に過ごすと、再び稽古を開始したときご自身の実力低下に嘆くこととなります。
 ぜひ今一度、「つなげる工夫」を読み直してください。
http://shinjukukendo.blog105.fc2.com/blog-entry-4.html

 ここに、「徒歩を修業に採り入れた」と記していますが、ちょうど今の時期、これ幸いと、通勤時など人混みを避ける意味でも、ぜひ実践してください。

 また、「1日1回は竹刀を持つ」についても、必ずしも広い場所、天井が高い部屋でなくても、たたみ一畳のスペースがあれば十分修錬を積むことができます。
 竹刀が天井につかえるようでしたら、短棒または折り畳み傘などでも結構です。

 要するに、剣道で一番難しいとされる「有効打突の身体表現」つまり、技が決まったカタチをつくる練習をしていただきたいのです。

 送り足、踏み込み足で身体移動しつつ、一本の得物を両手で把持し、ブレることなく振り切る練習です。

 これは先般、その118「〝かたち〟への目覚め」から121「〝かたち〟から〝型〟へ」で申しました空間打突そのものですが、ご自宅ではドンと床を強く踏む必要はありません。
 いっそ、スローモーションでやってみませんか。

 しっかりしたカタチとバランスのとれた身体感覚が身についていないとスローモーションの空間打突は難しいものです。

 ちょうど自転車の遅乗り走行のようなものです。初心者は倒れるのを怖れギクシャク一所懸命にペダルを漕ぐのですが、上手になっていくにつれバランスが安定し遅乗りができるようになります。

 要するに「人車一体」になれるかがポイントです。
 同じく、われわれ剣士が求めるべきは「気剣体一致」です。

 ちょうどこの時期を利用して、今までの道場稽古で見過ごされていた、ひとり「気剣体一致」への修錬を心懸けてみませんか。

 日頃は、慌てて自転車のペダルを漕ぐがごとく〝急ぎ打ち合い〟の稽古で崩れた形を矯正し、遅乗り自転車の名人のごとくゆったりとした技能を身につけましょう。

 遅乗りの自転車技術が物の用に立たないのと同じで、〝ゆっくり技〟そのものの実益はありませんが、ゆっくりと有効打突の身体表現ができる技能が大切なのです。

 〝ゆっくり技〟の体現、即「気剣体一致」の体得と言えましょう。
 必ずや道場での立合稽古で生かされるでしょう。
 あの太極拳の練習の動きを思い描き、〝ゆっくり技〟をつくり上げてください。

 〝ゆっくり技〟そのものは武術としての用をなしませんが、ゆっくりとブレることなく濃密な描線で移り動く技能を体得すれば、実戦において対者の隙、〝今、ここ〟に寸分の狂もなく〝間に合う〟動きとなるのであります。

 ちょうど、銃口から発射された弾丸が後で修正が利かないのと同じように、一気に発されたスピード技は軌道修正が利きません。
 その反対に、〝ゆっくり技〟はミサイルのように、発した後も相手の動きに応じて誘い導くことができるというものです。
 言うは易く行うは難し、ですが。

 いかがでしょう。
 納得された方は、すぐ実践です。
 師匠は、ご自身です。

 ひとり打ち込みに、少しでも「面白い」という心持ちが立ち現れたらしめたもの。その「面白い」を突き詰め、「しなやか」「快い」「楽しい」など、ポジティブでリズミカル♫な感覚を染みこませてください。

 それでは、1ヶ月後にお会いすることを楽しみに。
 ご精進をお祈りいたします。
井蛙剣士 頓真

丹田の自覚

                  その122 
                 丹田の自覚
 このように行きつ戻りつ試行と錯誤を重ねる道は、まことに曲がりくねったものでした。

 『五輪書』に記されている、力の存在を否定した「太刀の道」を知るすべに触発され、「太刀の道に哲理あり」という思いを強く懐いたこと。

 その中で、日本剣道形のすり足で行う「切る」と竹刀剣道の「打つ」の動作の違いに気づき、素振りと切り離して「空間打突」の修錬を自らに課したこと。

 しかし、空間打突を行う上で、実地の打ち込みを想定して行えば、踏み切り足(蹴り)と踏み込み足(着地)に速さ強さが求められる。力強く蹴り踏み付ければ、一瞬の力みは避けられず、これではいくら上肢を脱力しても、下肢とのバランスが保てずギクシャクしてしまう。といって、跳ばなければ繰り出す技が打突の好機〝今、ここ〟に間に合わない。

 そこで、力まぬ体勢よりも速攻性の方が重視されるのが現代剣道の競技的な要請であるのならば、その力みに伴う〝居つき〟という縛りの中で相手に攻め勝ち、隙を捉え打突する道を模索。

 また、〝力み〟を伴うことやむなし、とするのは、対峙する相手とは常に相対関係にあり、巷での稽古や試合を見ていると、みな跳び込み技を駆使して戦っており、双方とも力みまくって攻防を繰り広げている。
 ならば、こちら側が相手より柔らかな身動き、より力み少なく技を発することができれば戦いを有利に展開することができること必定。

 そして至ったのは、〝力み〟を伴うことやむなし、とした上での空間打突を再構築することでした。
 富士山を思い描いた構えから打ち出す空間打突は、腹部を充実させ重心を下げ腹式呼吸で行うことにより、〝かたち〟づくりに長足の進歩が感じられるようになります。

 今まで虚空でもがいていた身体が、いつの間にか、力みなく、楽で、すらっと、軽やかに、身体が竹刀とともに床上で一体となった感覚がやって来たのです。
 倦厭に苛まれていた空間打突の修錬に、ようやく励みがついてきました。

 と言いましても、それはあくまで独り稽古の段階においてであって、実地に役立つのは今少しの修錬を要します。
 またこの感覚も、更なる気付きによって打ち消されることになったり。気付きと打ち消しを繰り返し、これから先も、行きつ戻りつ、試行錯誤の歩みは続きます。

 ただし、この段階に入ってからは否定的な言葉が頭をよぎることはなくなり、「もっと」「より良く」の方向へ、楽しんで〝型〟づくりの修錬に励むことができるようになってきたのです。

 命題である「力を抜いて、気を入れる」の解明、第一歩とでも申しましょうか。
 身体と竹刀が一致し、打ち込んだ〝かたち〟があるべき〝型〟に嵌まった身体感覚がついにやって来たのです。

 この満足のいく進歩をもたらせたのは「上虚下実」とくに腹部の充実を心懸けたことにあると思われます。
 この一筋の光をたよりに進んでいけば、これすなわち「達人への道」、との信念も芽生えてきました。

 古くから日本人は、心と身体を統べる源を「腹」と考えてきたようです。また日本語には腹にまつわる言葉がたくさんあります。
 「腹に納める」「腹を決める」「腹をくくる」「腹を据える」「腹が太い」「腹を読む」「腹を割る」というように、人の魂は「腹」に宿ると意識されてきたようです。
 また、腹を切っての自死「切腹」が武士道の美学とされたのも、この意識がなせるものと思われます。

 私も、これら故事にならい、「腹」を心身の統一体と考えて修錬することによって、高度な剣技の能力が養われる、という思いを強く懐きました。

 広く芸道には「胸で見て、腰で聞け」という教えがありますが、空間打突を発念した私は、加えて「腹で動く」ことを心懸けることといたしました。

 また、重心を下げ腹部に気を押し込めた空間打突を積み重ねることによって、いつしか下腹部に「丹田」の在り処が感じられるようになってきたのです。

 今までも「丹田」という言葉はよく耳にし、また呪術的なものとして興味もありました。しかし、これはあくまで観念上のもの、あるいは精神的なものであって実体のないものであろうと思うに留まっておりました。

 また「丹田」を辞書で調べても、「下腹部の、臍の下にあたるところ。ここに力を入れると健康と勇気を得るといわれる」や「人間のへその下三寸の所。漢方で、元気の集まる所とされる」などと記されているだけで、いくら読んでも具象として認識することができません。
 気功やヨガなどの本には、丹田の在所を示す絵図なども載っていますが、すぐさま自分で体感できるものではありません。

 また、全剣連の『剣道指導要領』でさえ、「臍下丹田」について「臍下の下腹部を示すことばで、気力の充実や精神的な安定を保ち、合理的な動作を行う上で極めて重要な身体部位であるといわれている」という説明に終わっているありさまです。

 ただ、こうした「丹田」への思いは、一修業者として探究するに足りる十分な動機を与えました。下腹部のどこかに、パワーの根源が潜んでいる、と考えることによって。

 空間打突の修錬に当たっては、その丹田への思いを〝かたち〟づくりに籠め、身動きの一挙一動を常に「腹」を意識に置いて実行いたしました。

 そうすると、今まであった上肢下肢アンバランスのギクシャク感が徐々に解けてきます。「腹」を主体に動作することによって、上肢下肢を別々にとらえるのではなく、四肢を含めた身体全体を統御している感覚が得られたのです。
 ついに来た!
 「丹田の自覚」です。
つづく

〝かたち〟から〝型〟へ

                  その121
              〝かたち〟から〝型〟へ
 〝跳ぶ〟空間打突は、上肢下肢のバランスが悪く、なかなか〝かたち〟として納まりがつかない。跳ばない空間打突を試みてみると、なるほどギクシャク感はなくなるが、それを実際の稽古で試してみると体も刀も動きが緩慢で、また、踏み込む一足の幅が小さく、まるで通用しない。

 跳ぶ、すなわち左右の足が同時に宙にある状態はよくない、ということは理論上わかっていましたし、また、かじり読んだ『五輪書』にも、「飛ぶときに起こりが生じる、飛ぶことは即ち居つきなので、飛足は悪い」との教えがありますから。

 「跳ぶ、踏み切り足」は正道でないことはわかりつつも、実際の稽古や試合の現場で互いに応酬しあう技は、跳び足を駆使して繰り出されているのが実情です。
 そのうえ20代後半の我が身は、兵庫県警察の現役選手として結果を出さなければ生き残れない境遇にあります。

 跳ばなければ、打突の機〝今、ここ〟に間に合わない。であれば、これまで目指してきた空間打突のスタイルを変更せざるを得ません。跳んで、振って、打つへの回帰、というか、〝力み〟を伴うことやむなし、とした上での空間打突の再構築です。

 「再構築」というのはちょっと大げさですが、そう思わなければ気持ちが切り替わらない。実際は、現に普段の稽古で行っている打ち込みスタイル、すなわち〝力み〟感はうちやって、自分の身体の内側に意識を向ける独り稽古を空間打突として行うものです。

 下肢の〝蹴る〟と上肢の〝打つ〟を組み合わせた打ち込みを、新たに自己がイメージした〝かたち〟としてつくり上げればよい。

 また、〝力み〟を伴うことやむなし、とするのは、対峙する相手とは常に相対関係にあるという前提のもとです。
 巷での稽古や試合を見ていると、特に若手選手層の剣道スタイルはみな跳び込み技を駆使して戦っています。まさに双方とも力みまくって攻防を繰り広げている有り様です。

 であるならば、こちら側が相手より柔らかな身動き、より力み少なく技を発することができれば有利な戦いが展開できるというものです。
 そのためには、空間打突の修錬によって身体を熟(こな)れさせ、揺るぎない確固とした〝かたち〟をつくりあげることが大切。
 あえて〝跳ぶ〟ことを必要悪ととらえ、遠閒から打突することを主眼とした空間打突の修錬です。

 次ぎに左足で踏み切るとき、蹴って跳ぶ、ということになるのですが、できるだけ左足が床面から離れないよう、また、右足を高く上げないよう注意しました。
 左足で踏み切る(蹴り)の瞬発性と、右足による踏み込む強さは重要であるが、両足が同時に宙にある状態をできるだけ少なくするためです。

 このように、実戦に即した〝かたち〟づくり、へと修錬の方向性は決まり、改めてギクシャク感とのたたかいが始まります。
 この度は〝蹴る〟〝打つ〟と心得ての空間打突ですが、今までと変わらず円滑にいかぬまま暫し続けることによって新たな気付きが立ち現れました。
 
 それは当初の、下肢のスピード感ある〝蹴る〟と、上肢の緩慢な〝上げ下げ〟の組合せから、下肢の〝蹴る〟と上肢の〝打つ〟へと、上肢下肢ともスピード感を持たせることによって、上下のバランス関係を打ち立てるというものです。

 そのためには今まで以上に「上虚下実」の身体を意識して、腹部を充実させ重心を下げ、腹式呼吸によって行うことが大切だということを。
 「上虚下実」というのは、上半身に力みがなく下半身に力が充実している状態ですが、私の場合は、ことさら上虚は思わず、「下実」特に下腹部の充実に心を配りました。
 と、申しますのは、一つの身体で上下正反対のことを物すのは非常に難しく、腹部の充実に重点を置くことで、自然に「上虚」となる、という考えのもとにです。

 もっとも私は以前から「肩に力が入る」という課題をかかえております。常に力を抜くことを心懸けているのですが、これがなかなか上手くいきません。上体の力を抜こうとすれば気まで抜けてしまうのです。
 ですから、この度は「上虚」を意識しないようにしました。「下実」のみに傾注すれば、結果として「上虚」の状態がつくれるのでは、と思ったからです。

 この下腹部の充実に特化した空間打突の修錬を積み重ねたところ、ある時、真っ暗闇のトンネルにさす一点の曙光が兆します。
 まさに光明を見出すがごとく、一転、日ごとの〝かたち〟づくりに長足の進歩が感じられるようになりました。
 
 富士の山を思い描いた構えから繰り出される一打。トンと床を踏む足音とヒュッと空を切る竹刀の音。面、小手、胴、突き…、打ち込み動作の一挙手一投足に全身に気が充溢した感覚です。

 しだいに自己のイメージした〝かたち〟が体現できるようになってきたのです。
 身体と竹刀が一致し、打ち込んだ〝かたち〟があるべき〝型〟に嵌まった身体感覚です。
 いよいよやって来た!

 そして〝かたち〟から〝型〟への質的転換とでも申しましょうか、漠然とした〝かたち〟への思いが、実体を伴った〝型〟を具現している感覚が降りてきたのです。
つづく
プロフィール

新宿区剣道連盟

Author:新宿区剣道連盟
「井蛙剣談」への思い

 「井の中の蛙大海を知らず」と自覚しつつ
「井の中は誰よりも知っている蛙」に成り代わり書き進めてまいります
つたなき指導の一環とお受け止めいただければ幸いです
               真砂 威

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